「旅育」という言葉を聞いたことはありますか? 「旅育」とは、旅を通して子どもの心と脳を育むことで、withコロナ時代を迎えた今、広く関心を集めています。では、旅育を実践するには何から始めれば良いのでしょうか? 旅育コンサルタントで旅行ジャーナリストの村田和子さんに、旅育のメソッドと子どもの年齢に合わせた計画の立て方&オススメスポットを伺いました。
旅行ジャーナリスト・旅育コンサルタント
トラベルナレッジ代表
「旅行者・地域・社会が旅を通じて元気になる」をモットーに、人生や日常を豊かにする旅の提案を行う。「家族旅行・旅育」「ヘルスツーリズム」「記念日旅行」「クルーズ」などをテーマに、雑誌やwebへの寄稿、テレビ・ラジオへ出演。
旅育メソッド🄬を提唱し、著書に「家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ~旅育BOOK(日本実業出版社 )」。旅育をコンセプトとしたイベント監修や講演も行う。
公式ブログ:https://www.murata-kazuko.com/
家族deたびいく:http://tabi-iku.jp/
旅行ジャーナリストの村田和子です。私は、息子が生後4ヶ月のときに出かけた家族旅行をきっかけに「旅育」を意識し始めました。その息子が大学生となった今、子どもの成長に旅が大きく影響したことを感じています。今回は5つの旅育メソッド🄬とお子様の成長に合わせた旅育プランをご紹介しますので、子育てのご参考となれば幸いです。
子どもの生きる力を育む「5つの旅育メソッド」とは?
子どもたちの住む日常は、ご家庭、学校、ご近所、習い事と、決して広くはありません。子どもの目線では、社会の広さを想像するのはなかなか難しいのではないでしょうか。非日常の世界を体験できる旅は、自分の日常は社会の一部分にすぎないと気付かせてくれます。そして、その土地の言葉や文化、価値観に触れ、多くの人と出会うことで多様性を学び、人間関係や自分の存在について考えるきっかけとなることでしょう。
これから子どもたちが歩む未来は今以上に不可測で、旅を通して育むことができる“生きる力”が必要になると考えています。では、生きる力とは何か? 村田流旅育メソッドでは、生きる力を「自己肯定力」「コミュニケーション力」「知恵を育む力」の3つから成り立つと考えました。この3つの力を育むためには、旅行中はお子様を子ども扱いせずに“旅仲間”として接することが重要です。ついつい親心で「〇〇してあげる」と言いたくなりますが、ときには子どもに頼ってみましょう。また、旅育を意識すると学びを優先しそうになりますが、まずは親子で楽しむことを意識してみてください。楽しいが興味につながり、学びに変わっていくのです。子どもは親の背中を見ています。お子様をやる気にさせるには、率先して親が楽しみ、学ぶことが一番の近道だと思いますよ。
旅先ではどんなに入念な準備をしてもアクシデントが起こってしまうもの。とくにコロナ禍では「飛行機が欠航になった」「夕飯を予定していたお店が休業日だった」などのアクシデントをよく耳にしました。しかし、どんな状況でも冷静に、プラス思考で状況を把握し、最善を尽くすようにしましょう。そうすることでその経験は子どもの記憶に残り、今後に活かせる知恵となるはずです。旅のピンチは「旅育のチャンス」と捉え、家族全員で乗り切ることで絆も深まりますよ。
ここからは旅で積極的に学び、生きる力を育むために親が心がけたい心得や方法、「5つの旅育メソッド🄬」をご紹介します。子育てのひとつの手段として、ご活用いただければと思います。
●旅育メソッド①旅の計画や準備は子どもと一緒に
旅の計画段階から旅育は始まっています。親がすべての計画を立てる旅行より、子ども自身が関わったほうがモチベーションは上がりますし、主体的に旅を楽しめるようになるので学びが大きくなります。旅先で「何をしたいのか?」「その理由は?」といったことを家族で話し合うことで、協調性や判断力、コミュニケーション力も養われることでしょう。また、旅支度を一緒にすることで、旅先での過ごし方を想像でき、旅が生きた学びの機会に変わっていきますよ。
●旅育メソッド②役割や目標を設定、褒めて成功体験に
小さなことでも良いので、旅では年齢に合わせて役割や目標を設定しましょう。子ども自身が意識して行動することで責任感を持ち、主体性が育まれます。そして、役割や目標を達成できたら、ぜひ褒めてください。日常生活で褒めることはなかなか難しいですが、旅では時間と場所を区切って行動するので、小さな目標を立てやすく、褒めるタイミングもつかみやすいんですね。お子様が目標を達成できたら、具体的に褒めて成功体験となるようにサポートしましょう。親御さんも一緒に目標を立てれば、家族の絆も深まるはずです。
●旅育メソッド③旅先では家族各々で過ごす時間をつくる
家族旅行で別々に過ごすのはなぜ? と思われるかもしれませんが、非日常空間で各々の時間を適度に持つことは、子どもの経験値アップにつながります。子どもだけで参加できるキッズプログラムなどは、コロナ禍で開催を自粛しているところもありましたが、再開の動きもでてきました。お子様が自主的に挑戦してみたいものが見付かったら、積極的に参加してみましょう。そして、各々の時間を過ごしたあと、家族で経験や感動を共有するようにすれば、旅の思い出は何倍にも増すことでしょう。
●旅育メソッド④本物に多く触れ関心の芽を育む
子どもたちにとって新しい発見の多い旅は、「なぜ?」「どうして?」と疑問がたくさん。これこそ旅育のチャンスです。本来、知ることや学ぶことは楽しいことのはず。興味の湧いたものは子どもから進んで探求するので、質問されたら即答せず、結論にたどり着くサポートをしたり、一緒に調べたりするようにしましょう。子どもたちの「したい」を尊重し、自分で「気付く」ことが大切です。
●旅育メソッド⑤思い出を「かたち」にして残す
旅の思い出はかたちがないので、何もしないと忘れ去られてしまうことも。旅での学びや成功体験をできるだけ長く記憶にとどめておくことは、子どもが前向きに生きるためのベースになるはずです。旅で制作体験をしたなら自宅のいつも目に入る場所に飾る、農業体験をしたなら収穫物を一緒に料理して家族で会話するのも良いですね。また、旅先から自宅宛にはがきを送っておくと、旅の記録になるだけでなく、数年後に見返すことで子どもの文字などから成長を感じ取ることもできますよ。
旅育計画の立て方
旅をするうえで大切にしたいのは、どこへ行くかより“何をするか”。その視点で行き先を探すと、意外と近場でもお金と時間をかけずに旅育ができます。日常的におでかけする場所でも、イベントに参加することで特別な体験になるはずです。何をするかを軸に旅のテーマを設定すると、旅行計画が立てやすくなりますよ。
親子一緒に“はじめて”を経験する旅も良いですね。専門家と一緒にトレッキングなどのアクティブ体験をすれば、安心して親子で困難を乗り越える共同体験ができるので、家族の絆が深まりやすくなります。親の趣味や得意なことをテーマにする場合は、子どもの年齢に合わせて提案し、興味がなさそうなら別の機会に。子どもの興味を第一に考え、探求心が芽生えたら学びをサポートしましょう。
【幼児の旅育】計画の立て方とオススメのスポット
未就学児のころは、お子様の「興味関心を増やす」ことが旅育での最重要ポイントだと思います。「小さいときに旅をしても記憶に残らないのでは?」と言われることもありますが、思い出せないだけで物事のとらえ方や考えには十分影響があると最近の脳科学研究でわかってきたそうです。コミュニケーションが取れる3歳ごろになったら、興味が湧きそうな行き先を2〜3ヶ所ほど挙げて選んでもらうようにしましょう。そして、選んだ理由を聞いて、自分の考えを話してもらうことも旅育になりますよ。お子様が小さいころは五感で体験できる動物園や水族館、花畑など、本物に触れられるスポットを中心に、行き先をピックアップするのが良いでしょう。
幼児にオススメな旅育スポット①天草イルカウォッチング(熊本県)
熊本県天草沖には野生のイルカが多く生息しています。船に乗って約15分で生息スポットに到着するうえ、イルカに出会える確率はなんと98パーセント。イルカは人懐っこいので間近で眺められ、親子で大興奮! 景色もきれいなので癒やされます。
海の生き物に興味を持ったら、「環境水族館アクアマリンふくしま」や「大分マリーンパレス水族館うみたまご」などの水族館も旅育にぴったりですよ。
「イルカウォッチング受付予約センター」のHPはコチラ
幼児にオススメな旅育スポット②日立市立かみね動物園(茨城県)
かみね動物園は「楽しく入って、学んで出られる動物園」をモットーとしています。楽しみながら動物への理解や学びにつながるポイントをたくさん設けていて、なかでも「もぐもぐタイム」はエサやりを体験できる人気イベント。ふれあい体験は、整理券を配布し人数制限するなど感染対策を講じて実施していますが、天候や動物の体調によって実施スケジュールは変動するのでチェックが必要です。スタッフ手作りの解説掲示も見ながら、 ゆったり過ごす動物たちに癒やさましょう。
「日立市立かみね動物園」のHPはコチラ
幼児にオススメな旅育スポット③瀬戸内国際芸術祭(岡山県・香川県)
瀬戸内国際芸術祭は3年に一度、瀬戸内海に浮かぶ島を中心に開催される現代アートの祭典です。現代アートは体感型なので、小さなお子様も大いに楽しめることでしょう。開催期間外でも一部の屋外作品は自由に見学可能。春、夏、秋とそれぞれ開催されるため、季節による作品の変化も興味深いですね。
「瀬戸内国際芸術祭2022」のHPはコチラ
【小学校低学年の旅育】計画の立て方とオススメスポット
小学生からは「興味関心を増やす」に加えて「学校で習ったことを旅で確かめる」要素もプラスされます。小学校低学年は旅育メソッド🄬の効果が一番大きな時期。お子様の学習内容などにも応じて、メソッドを活用していただければと思います。旅の計画時には、親が予算や日程を考慮した案を複数提示し、子どもに選んでもらうのがオススメです。さらに旅先での役割を設定することで、責任感や自主性を育むことができるでしょう。以上を踏まえて、小学校低学年向けのオススメ旅育スポットをいくつかピックアップしました。
小学校低学年にオススメな旅育スポット①星野リゾート リゾナーレ那須(栃木県)
星野リゾート リゾナーレでは、子どもが参加できるさまざまなアクティビティが企画されています。なかでもリゾナーレ那須の、田んぼのある原風景や米食文化の継承を目指した「お米の学校」がオススメ。プログラムにて学ぶ稲作では、季節に応じて、田植えや収穫、脱穀などを体験できます。そのほか、毎朝、施設内の敷地では農業体験ができる無料アクティビティも実施されています。子どもが毎日接する食についての体験は、旅から帰った後も繰り返し思い出されるので、旅育効果もより高まることでしょう。
「星野リゾート リゾナーレ那須」のHPはコチラ
小学校低学年にオススメな旅育スポット②大塚国際美術館(徳島県)
大塚国際美術館には、古代から現代まで世界26カ国の西洋名画を陶板で、原寸大に再現したものが展示されています。古代遺跡や礼拝堂などの壁画を空間ごと再現した立体展示もあり、臨場感たっぷり。また、原寸大ということで、美術の教科書などでよく知っているつもりの絵が、思ったよりも大きい(小さい)などの気付きもあります。館内は広いので、お子様主導で地図を見ながらまわるのも旅育になりますね。
「大塚国際美術館」のHPはコチラ
小学校低学年にオススメな旅育スポット③スパリゾートハワイアンズ(福島県)
日本にいながら異文化を感じられるスパリゾートハワイアンズ。館内は一年中28度の常夏で、心地良いハワイアンミュージックが流れるなか、家族全員でアロハシャツやムームーを着てハワイ気分を満喫できます。親子で楽しめるフラガールによるショーやファイヤーナイフダンスのほか、プールに併設のスライダーでは、冒険心を育み、記念日にはレイで迎えてくれるなど「きづなリゾート」として、家族の思い出を記憶に残すサービスにも力を入れています。昨夏には、ハワイの山での過ごし方をイメージしたグランピング施設もオープン。
「スパリゾートハワイアンズ」のHPはコチラ
【小学校高学年の旅育】計画の立て方とオススメのスポット
小学校高学年は、思春期を迎える難しい時期。知識量も増えて親が敵わない分野が出てくる時期でもあるので、旅での関わり方を変えるのがポイントです。子どもが小さいときの親の役目は、疑問に対するサポートでしたが、高学年になったら親御さん自身も学ぶ姿勢を意識しましょう。博物館や寺院などでは、専門家やガイドの方に案内してもらって、親子で学んでみるのも良いですね。親以外の大人の話だからこそ素直に聞けることも多い時期ですから、第三者の手を借りつつ旅育を実践してださいね。
また、高学年になると、それまで以上にさまざまな役割を任せられるようになります。旅の計画時に予算や条件を伝えたうえで、交通機関や乗換方法のガイドを担当してもらうのも良いでしょう。旅のテーマや行き先は、お子様の興味関心を優先したうえで、年齢層に合わせた学習内容を考慮しながら相談するのがポイント。高学年の場合、以下のようなスポットはいかがでしょうか。
小学校高学年にオススメな旅育スポット①上勝町ゼロ・ウェイストセンター(徳島県)
徳島県上勝町は、法改正によってゴミの焼却ができなくなったことから生まれた環境先進地。ゴミのリサイクル率は80パーセントを超え、「ゼロ・ウェイスト宣言」で世界中から注目される町です。ゼロ・ウェイストセンター内のホテルでは、ゴミを減らし再利用するさまざまな仕組みを学ぶことができるので、楽しみながら環境問題に取り組めるはずです。
「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」のHPはコチラ
小学校高学年にオススメな旅育スポット②広島平和記念資料館(広島県)
広島平和記念資料館は戦後10年で開館し、長きに渡り平和を訴え続ける施設です。戦争がニュースで報じられる今だからこそ行っておきたい、子どもにも知ってもらいたい場所と言えるでしょう。2019年にリニューアルされ、共感できる内容、ITを使ったわかりやすい展示となっています。ホームページの「キッズ平和ステーション」でも、アニメーションや図解でわかりやすく戦争について学ぶことができるので、旅の前後に活用するのも良いでしょう。
「広島平和記念資料館」のHPはコチラ
小学校高学年にオススメな旅育スポット③海上自衛隊呉史料館/愛称:てつのくじら館(広島県)
鎮守府が置かれた地、呉を軸として海上自衛隊の歴史を紹介する施設で、本物の潜水艦に乗って内部を見ることができます。入館は無料で、館内のカフェではあきしお第10代艦長認定「あきしおカレー」を販売しています。海上自衛隊の方とカレーの話をすれば、環境が変わると食べ物の捉え方も変わるということに気付けるかもしれません。
「海上自衛隊呉資料館/愛称:てつのくじら館」のHPはコチラ
子どもの年齢に合わせた旅育計画の立て方とオススメのスポット まとめ
旅育計画の立て方とオススメのスポットについてお伝えしてきましたが、子どもにはひとりひとり個性がありますので、お子様の興味関心や性格に合わせてご活用いただければと思います。コロナ感染などの不安がまだあるようなら、無理に遠出をする必要はありませんので、お子様と相談して納得のうえで旅に出かけてくださいね。
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