野鳥を呼べて果物も食べられる!専門家が教えるおいしいビオトープガーデンのつくり方

冬はバードウォッチングにぴったりの季節と言われています。というのも、日本にいる野鳥のうち半数ほどが渡り鳥で、その多くが日本で冬を越すからだそうです。さらに公園や街路樹が大きく育って樹林化が進み、都心部の住宅街でも樹林を好む野鳥の姿を見やすくなってきているとのこと。今までよりも身近な存在になった野鳥、お家の庭でもてなして、バードウォッチングしてみるのも楽しそうですよね。そこで、植物生態コンサルタントで野鳥観察にも詳しい泉健司さんに、野鳥も呼べる果物の庭「おいしいビオトープガーデン」のつくり方について、伺いました。

植物生態コンサルタント・泉健司のプロフィール
泉健司 プロフィール

ビオトープ・ガーデン提唱者・植物生態コンサルタント・自然造形作家

東京農業大学農学科副手を勤めた後、環境アセスメントをはじめとした各種植生調査、フロラ調査の仕事に従事。1996年、ビオトープ・ガーデンを提唱し、様々なメディアで紹介され、自然公園などのプロデュース、草地環境や里山環境の回復に努めている。
教育活動にも力を入れており、スキルの高いボランティアの養成や様々な講演、講習会、各種教育施設での企画展示、ウェブ・コンテンツの制作を行うほか、自然造形物を素材としたネイチャー・インスタレーション、クラフト、フラワーアレンジメント、環境音楽など、多岐にわたる活動を行っている。NPO法人 Green Works 顧問、一般社団法人 山岳環境研究所理事なども勤める。
ホームページ:ビオトープ・ガーデン ~生態系との新しい調和~

植物生態コンサルタントの泉健司です。ビオトープには、「野生の生物のためのすみか」という意味があります。花が咲いて実がなったり、葉を食べて幼虫が育ったりと自然界と同じような環境をつくることで、お家の庭で野鳥などの野生生物と出会うことができるわけです。さらに、樹木や草花を植えるなら、私たちが食べられる果物も育て、おいしくいただきたいですよね。そんな考えから生まれたのが「おいしいビオトープガーデン」です。今回は、おいしいビオトープガーデンのつくり方やオススメの樹木などをご紹介しますので、興味を持たれたら、ぜひ参考にしてみてください。

おいしいビオトープガーデンとは? つくり方のポイントや注意点

庭のナツグミをついばみに来たムクドリ
「ナツグミ」を食べに来たムクドリ ©Kenji Izumi

おいしいビオトープガーデンは、できる限り自然に近い状態が望ましいです。無農薬で花殻摘みもせず、庭の隅や空いたプランターに生えた雑草も気に入ったものであれば残しつつ、ローメンテナンスでつくっていきます。庭で季節ごとの野鳥を観察したい方やガーデニングが好きな方はもちろん、小さなお子様と一緒に身近な自然とふれあいたい方、オーガニック志向で無農薬のフルーツやハーブなどを楽しみたい方にオススメです。

庭のスペースが限られている場合でも、「キンカン」などの鉢植えひとつから始めることができるので、玄関先のささやかな空間やベランダで楽しんでいる方も多いですね。一方で、スペースが広ければ広いほど多種類の植物を組み合わせて植えられるので、そこで暮らせる生物の種類が増えて集まってくる野鳥の種類も多くなります。いわゆる生物多様性を豊かにすることで、食べたり食べられたりのネットワークが複雑化して病害虫の暴走を抑え込み、穏やかに安定したローメンテナンス空間をつくりだせるわけです。

特別な道具は不要で、普通の庭仕事で使うものがあればOK。肥料は、土の中の虫を食べる野鳥のためにも堆肥などの有機肥料を使います。長期的に考えると化学肥料よりオーガニックのほうが土にも人間にとっても良いでしょう。有機肥料を使うからといって虫が大量に湧くわけではないので安心してくださいね。

植えっぱなしでも毎年実をつけるブドウ(デラウエア)
©Kenji Izumi

どんな植物を植えるかは、植える場所によりけりです。たとえば日当たりが良くて乾燥しやすい場所であるならば「オリーブ」や「ブルーベリー」が失敗しにくいのでオススメですね。ちなみに小鳥たちは白い壁を怖がるので、お家の壁が白い場合は植物で壁を隠すようにすると良いですよ。トレリスを設置して、「キウイフルーツ」や「アケビ」、「ブドウ」などのツル性フルーツを絡ませましょう。キウイフルーツには雄株と雌株があるので、必ずセットにして植えてくださいね。西向きの壁面なら日よけにもなるので、冷房費の削減にもなります。

また、同じ種類の樹木を2本以上植える場合は、同じ“品種”だと病気にかかりやすいなどの弊害があるので、違う品種を選びましょう。違う品種を植えれば実の付きが良くなり、病気や天候の影響を受けにくくなってメンテナンスも楽になりますよ。

ガーデンバードウォッチングに向いているのはフルーツ類がなる樹木

ガーデンバードウォッチングに向いているのはフルーツ類がなる樹木
「ナツグミ」を食べに来たムクドリ ©Kenji Izumi

野鳥が呼べて人間も食べられる樹木や草花は、大きく分けてナッツ類かフルーツ類です。ナッツ類だと「ピーナッツ」や「クルミ」、「スダジイ」などが当てはまりますが、畑が必要だったり大木になったりするので、おいしいビオトープガーデンづくりにはフルーツ類がオススメです。ジューシーなフルーツ系の樹木を植えるとメジロやヒヨドリ、ムクドリやオナガ、周辺環境によってはヒレンジャクやキレンジャクもやって来ることがあります。また、近隣とは違う時期に果物がなる樹木を植えると、いろんな種類の野鳥が来てくれますよ。

野鳥からのプレゼント

おいしいビオトープガーデンができ始めたら、野鳥の憩いの場である「水場」もつくってあげましょう。野鳥が遊びに来る環境が整うと、鳥たちから思わぬプレゼントが貰えることも。それは、糞に含まれた種子。花屋さんでは手に入りにくい野山の植物が芽生えてきます。「ラズベリー」よりもおいしい実がなって花も紅葉も綺麗な「クサイチゴ」、お店で買うとなかなかのお値段の「タマサンゴ」など、お気に入りの植物が顔を出したらガーデニング素材として利用しちゃいましょう。その植物をたよりにさらに新しい生き物がやって来るようになって、より深く自然とのふれあいを楽しむことができるでしょう。

●クサイチゴ

野鳥からのプレゼント・クサイチゴ
©Kenji Izumi

メモ:花も実も、紅葉も楽しめる優れもの

●タマサンゴ

野鳥からのプレゼント・タマサンゴ
©Kenji Izumi

メモ:実は人間にとっては観賞用だが、鳥たちには大好物

オススメのおいしい樹木

手軽に育てられる樹木

栽培が簡単でジューシーな実のなる樹木をいくつか紹介します。実だけでなくかわいい花も咲きますよ。

●ブラックベリー

オススメのおいしい樹木・ブラックベリー
©Kenji Izumi

収穫時期:7〜8月
分類:半ツル性低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:爽やかな香りで甘酸っぱい
メモ:地植えするときは広めのスペースを確保

●カジイチゴ

オススメのおいしい樹木・カジイチゴ
©Kenji Izumi

収穫時期:5〜6月
分類:落葉低木
日照:日向
果実の特徴:ほんのり甘い上品な味
メモ:つややかな葉は活花にも使われる

●ヤマボウシ

オススメのおいしい樹木・ヤマボウシ
©Kenji Izumi

収穫時期:9〜10月
分類:落葉高木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:酸味のない甘い味、レモン汁を加えて裏ごしすればジャムになる
メモ:花も実も紅葉も楽しめる、シンボルツリーとしても人気

●ヒメリンゴ

オススメのおいしい樹木・ヒメリンゴ
©Kenji Izumi

収穫時期:11〜12月
分類:落葉低木
日照:日向
果実の特徴:シャキシャキした食感で、濃縮されたりんごの味
メモ:サクラみたいな花もなかなかきれい

●イチゴノキ

オススメのおいしい樹木・イチゴノキ
©Kenji Izumi

収穫時期:12〜2月
分類:常緑低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:赤黒く熟れるまで待つと、優しい甘さでやわらかな食感
メモ:9月頃から色付き始めるが、おいしくなるのは12月以降

●レモン

オススメのおいしい樹木・レモン
©Kenji Izumi

収穫時期:10〜12月
分類:常緑低木
日照:日向
果実の特徴:酸味が強い、有機栽培だと皮も食べられる
メモ:ベランダでも育てやすいが、寒冷地では霜の対策が必要

●キンカン

オススメのおいしい樹木・キンカン
©Kenji Izumi

収穫時期:1〜3月
分類:常緑低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:皮が甘く、果肉は酸っぱいので皮ごと食べると絶妙なバランス
メモ:水はけの良い場所が好きなので、ベランダにもピッタリ

●暖地桜桃(だんちおうとう)

オススメのおいしい樹木・暖地桜桃(だんちおうとう)
©Kenji Izumi

収穫時期:4〜5月
分類:落葉低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:小粒なサクランボ、別名「暖地サクランボ」
メモ:暖かい地方でも栽培できるのが強み

●フサスグリ

オススメのおいしい樹木・フサスグリ
©Kenji Izumi

収穫時期:6〜7月
分類:落葉低木
日照:半日陰
果実の特徴:酸味が強いのでアイスクリームなどのトッピングに
メモ:湿った木陰に植えると良く育つ

●ベニバスモモ

オススメのおいしい樹木・ベニバスモモ
©Kenji Izumi

収穫時期:7〜8月
分類:落葉低木
日照:日向
果実の特徴:果肉まで赤くて甘酸っぱい
メモ:花も実も、赤紫色の葉も楽しめる優れもの

●ユズ

オススメのおいしい樹木・ユズ
©Kenji Izumi

収穫時期:「青ユズ」は8月、「黄ユズ」は11月~12月
分類:常緑低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴: 爽やかな香りの実は、お料理の強い味方
メモ:寒冷地では霜の対策を

そのほか、下記の植物もオススメです。収穫時期が異なる樹木や草花を植えて、一年中なにかしらの果物が実るようにすると、野鳥が好む庭になるかもしれませんよ。

春……「キウイ」「イチゴ」「ビワ」「ナツミカン」
夏……「マルベリー(クワ)」「ヤマモモ」「ブルーベリー」「イチジク」「ブラックカラント(カシス)」「ラズベリー」「ブドウ」「ハッサク」
冬……「ダイダイ」

珍しいフルーツの樹木

珍しいフルーツは、どれだけおいしくても野鳥が見慣れるまでは、なかなか食べてもらえません。私が手掛けた保育園の庭に「ジューンベリー」を植えた際は、鳥が食べるようになるまで3年かかりましたね。しかし、一度食べると鳥もおいしさがわかって常連客になってくれるので、達成感はひとしおです。今では子どもたちと取り合いになるくらいですよ(笑)。

●ジューンベリー

珍しいフルーツの樹木・ジューンベリー
©Kenji Izumi

収穫時期:6〜7月
分類:落葉低木
果実の特徴:非常に甘い、赤い実が黒っぽく変わるにつれて甘みが増す
メモ:花も実も楽しめ、シンボルツリーとしても人気

●フェイジョア

珍しいフルーツの樹木・フェイジョア
©Kenji Izumi

収穫時期11〜1月
分類:常緑低木
果実の特徴:別名「パイナップルグァバ」、ナシのような食感とトロピカルな香り
メモ:花も実も、トロピカルな葉も楽しめる優れもの。追熟させるのがポイント

●ドッグローズ

珍しいフルーツの樹木・ドッグローズ
©Kenji Izumi

収穫時期:9〜12月
分類:落葉低木
日照:日向〜半日陰
果実の特徴:乾燥させてローズヒップティーに
メモ:かわいい一重咲きのバラの花としても楽しめる

●ハマナス

珍しいフルーツの樹木・ハマナス
©Kenji Izumi

収穫時期:9〜10月
分類:落葉低木
日照:日向
果実の特徴:裏ごしすると美味しいジャムに
メモ:香り高い一重咲きのバラの花としても楽しめる

●赤花イチゴとワイルドストロベリー

珍しいフルーツの樹木・赤花イチゴとワイルドストロベリー
©Kenji Izumi

収穫時期:真夏と真冬以外
分類:グランドカバー植物
日照:日向
果実の特徴:小粒だが、香り高い実が楽しめる
メモ:陽当たりと水はけが良ければ、ツルを伸ばしてどんどん増える

そのほか、秋に収穫できる「クランベリー」などのグランドカバー植物を一緒に植えるのもオススメですよ。

お家で育てたフルーツの活用法

お家で育てたフルーツの活用法
©Kenji Izumi

果実がなったら半分は鳥たちのために残してあげて、あとは私たちが食べる用に収穫しましょう。果物はそのまま食べても十分おいしいですし、アイスクリームやヨーグルトのトッピングにすると収穫量が少なくても楽しめます。夏に収穫した「ブラックベリー」や「ラズベリー」を冷凍しておくと、好きなときにトッピングできるので、なかなか便利。たくさん収穫できたらジャムやコンポートにするのもオススメです。
また、冷凍保存した果実はフルーツティーやフルーツソーダ、タルトなどの焼き菓子にするのも良いですね。無農薬なので小さなお子様でも安心して食べられますし、お子様と一緒に収穫やお菓子づくりも楽しめますよ。

知っておきたいカラスや害獣の対策

野鳥は警戒心が強いので、カラスなどがいる庭へはなかなか来てくれません。樹木を育てるだけでなく、野鳥が安心して過ごせる庭にするための対策を講じておきましょう。カラスは見えない何かに羽が引っかかるのを恐れるようなので、対策としてはテグスが効果的です。木やパイプなどを支柱に、市販のナイロンテグスをカラスが羽を広げた幅(約80センチ)で何本か張ると、小さい野鳥はすり抜けてカラスだけが引っかかりますよ。ですが、カラスは知能が高く、ずっと同じ場所にテグスを張っていると攻略されてしまうので、ときどき場所を変えたほうが安心です。ただし、厳重にやりすぎると野鳥が寄ってこなくなってしまうのでほどほどに。また猛禽類のシールや凧も効果がありますが、ほかの鳥たちも怖がって近づかなくなるのでオススメできません。

また、地面の下からも害獣がやってきます。都心ではさすがに少ないですが、モグラやハタネズミに地植えしたばかりの植物を掘り返されて困るケースも。対策としては、地植えした場所を囲むように「ヒガンバナ」や「スイセン」や「コルチカム」、または「リコリス」や「フリチラリア」などの球根植物を植えておくと効果的です。

●ヒガンバナ

モグラ対策になる球根植物・ヒガンバナ
©Kenji Izumi

開花時期:9〜10月
分類:球根植物
日照:日向
メモ:花が終わってから葉っぱが出てくる。同じ仲間の「シロバナマンジュシャゲ」やオレンジ色の花の「ショウキズイセン」などもオススメ

●スイセン

モグラ対策になる球根植物・スイセン
©Kenji Izumi

開花時期:12〜4月
分類:球根植物
日照:日向
メモ:植えっぱなしでも毎年咲く。花着きが悪くなったら、堆肥をあげる

●コルチカム

モグラ対策になる球根植物・コルチカム
©Kenji Izumi

開花時期:9〜11月
分類:球根植物
日照:日向
メモ:秋に花だけ咲かせる、葉っぱが出るのは春になってから。「ギョウジャニンニク」と間違えて中毒を起こす事故もあるので、家庭菜園とは分けて栽培

そのほか地域によっては、庭を荒らすハクビシンやアライグマ、タイワンリスなどもいますが「鳥獣保護管理法」により野生生物は勝手に駆除できないので、困ったらまずはお住まいの市町村へ相談しましょう。

野鳥を呼べて果物も食べられる! おいしいビオトープガーデンのつくり方 まとめ

私はお家の庭でもできる自然保護のひとつとして、身近な野生生物と人間が仲良く暮らせる庭「ビオトープガーデン」を提唱しています。自然保護と聞くと、制約が多くて人間がやせ我慢しがちなイメージもありますが、ビオトープガーデンなら庭のつくり方によって生物をある程度呼び分けることができます。野鳥をメインに呼ぶ、なんてことも可能なんですよ。なかでも「おいしいビオトープガーデン」は野鳥と一緒に食べごろの果物をおいしくいただける、地球にも家族にも優しい庭です。庭づくりに慣れたらいろんな種類の植物を植えて、ライフワークとして長く楽しんでみてくださいね。

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